【聖母はベルナデッタに何を語ったのか】
ベルナデッタの前に現れた、聖母マリア。
この聖母マリアの御出現は、ベルナデッタにとってどんな意味があったのでしょうか。
目の前に現れた“婦人”が聖母マリアであるとまだわからなかった頃、ベルナデッタはそのときの様子をこう書き記しています。
「その方は、人が誰か大切な人に話しかけるときのように、
じっとわたしを見つめてくださいました。」
自分が“大切な人”のように見られている・・・そう感じたベルナデッタ。
当時の暮らしは、鉄くずや薪を拾って生計の足しにするような、貧困のどん底にありました。その貧しさゆえに、周囲からどんな目を向けられていたでしょうか。疎まれ、蔑まれることもあったでしょう。そのベルナデッタに向けられた”大切な人のように見つめた”その女性の目線・・・それは 愛のまなざしでした。
世間からはみじめでみすぼらしくうつる自分がこんなにも深く愛されている・・・!
ベルナデッタにとって、初めて自分の全存在が肯定されたような、衝撃的な愛の体験だったのではないでしょうか。
この“愛のまなざし”は、ベルナデッタにだけ注がれているのではなく、いつでも、どこででも、私たちに注がれています。愛ゆえに、神は、社会の中で隅に追いやられている人々を決して見過ごされません。
それは、イエス・キリストのこんな言葉にも現れています。
「こころの貧しい人たちは、さいわいである、
天国は彼らのものである」
「悲しんでいる人たちは、さいわいである、
彼らは慰められるであろう」
「心の清い人たちは、さいわいである、
彼らは神を見るであろう」
聖母は、ベルナデッタの前に現れて、次のようなメッセージを託されました。
「罪びとのために祈ってください」
「償い!償い!償い!」
父なる神の願いは、すべての霊魂を救うことです。聖母マリアやイエス・キリストは、 その救いの計画のため、罪を犯した魂を救済したいと考えておられます。 その救済のために必要なのが、悔い改め、回心です。神に心向けること。聖母はそのためにベルナデッタに「罪人の回心のために祈ってください」とお願いされたのです。
“罪人”とは、法を犯した犯罪人という意味ではありません。
さまざまな誘惑に負け、自分や人をさげすみ、恨み、ねたみ、愛のない行為を行なう、弱さを抱えた私たち人間のことです。
ベルナデッタは、「罪人である私のために祈ってください」と言っていました。
(罪人は)「わたしたちの兄弟なのです」と。罪人とは、自分自身でもあったのです。
そのため、自分の弱さやみじめさを受け止め、謙虚さ、へりくだる姿勢をいつも持っていました。
また、聖母はベルナデッタに次のような深いメッセージも伝えられました。
「(私は)
この世であなたを幸せにすることではなく、
次の世で幸せにすることを約束します」
これはどういう意味でしょうか?
何をもって幸せというのか、「幸せ」の意味が問われてきます。
あなたは何を“幸せ”だと思いますか?
健康であること、愛する家族に囲まれていること、仕事があること、などでしょうか?それらを“幸せの条件”とした場合、その幸せはいつまで続くでしょうか?
永遠に健康ではいられません。肉体は必ず死に向かうからです。
愛する家族、その人たちはいつまであなたと共にいてくれるでしょうか。
家族とも、お別れしなければならない時が必ずやってきます。
仕事、いつまでできるでしょうか?それもいずれはやめる時期がくるでしょう。
そうしたものを“幸せの条件”にするならば、それを失った時あなたは“不幸”になることになります。あなたの“幸せ”は、そのような外的条件によって、いとも簡単にゆさぶられる、危ういものになってしまいます。
貧しく、無学で、愛する家族と離れて暮らし、病気のためにやりたい仕事もできなかった、そんなベルナデッタは不幸だったでしょうか?
ベルナデッタはこう言っています。
「わたしは一瞬たりとも愛さずにはいられません」
弱くて小さな存在である自分。それに目をかけてくださる神への賛美と感謝。ベルナデッタにとって、何より大切なことは、神の愛と共にあることでした。
病が治るという奇跡の泉を掘り起こしたにもかかわらず、自分の病気は治ることはなく、35歳の若さで病死します。
「この世であなたを幸せにすることではなく」というのは、「この世における、世間一般の価値観でいう“幸せ”は、あなたの本当の“幸せ”ではないのです」ということです。
神の考える“幸せ”と、人間の価値基準で考える“幸せ”とは違うものです。
聖母マリアは、愛に満ちた永遠の命にベルナデッタを迎え入れると約束されました。それが、魂にとっての究極の“幸せ”です。
ベルナデッタの人生に思いをはせるとき、「この世の価値観を中心に生きるのではなく、神の愛とつながって、その愛に目覚めて生きることが大切だ」というメッセージを受け取ることができるのではないでしょうか。
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